小泉 誠
イメージが明確。
仕込まれた無理難題に
(文:宮崎椅子製作所 開発スタッフの談話を編集)
原寸試作で確かめる、ワークショップでしかできないこと。
宮崎椅子製作所が2000年に自社ブランドの製品づくりに取り組み始めたときから今日まで、デザイン開発のために定期的に工場に通ってくれているのが、デザイナー小泉誠さんです。
初めて会ったとき、雑誌などでは「イキのいい若手デザイナー」と評されていました。それから20年以上経って、今や日本を代表するデザイナーとして国内外で活躍されています。そんな小泉さんの進化、発展とともに、宮崎椅子製作所のデザイン開発は歩みを共にさせてもらっています。
小泉さんとのデザイン開発でいつも感じるのは、最初の案のコンセプトやイメージが明確だということです。最初のスケッチや図面を見るときからすでに、製品化するための必要条件がまとまっていると感じます。それが、4回、5回と試作を重ねながら、さらに良くなっていくことをどの製品開発でも感じます。
図面の印象でまとまりが良いと感じても、実際に形にしてみると問題点が浮かび上がります。デザイン開発のワークショップでは、私たちスタッフと一緒に原寸の試作品に向き合ってどのように問題を解決するか改良点を探ります。手触り、座り心地、構造の感触。いつも朗らかで元気な場づくりをしてくれる小泉さんですが、原寸試作を目の前にしているときは、笑顔であっても緊張感やとても集中していることが伝わってきます。ちょっとのことに気づき、ちょっとのことに時間をかけ、ちょっとのことにこだわり抜くことを教わった気がします。問題が解決したときや製品ができ上がったときに、そのちょっとのことが大きなことなのだと何回も実感しました。
まとまりがいいだけじゃない。無理難題が潜んでいる。
小泉さんのデザイン案は、最初から完成形が見えるようなまとまりの良さを感じるのですが、3本脚のスツール「ORI」の図面を見たときは、「簡単なんじゃないの」と思って製作図を作成しようとしたら、「できない!!!」と、壁に突き当たりました。図に描けない角度が潜んでいたのです。「sansa stool」の開発のときは図面を見て、「この構造はもたないだろうな」と思いながらも、社長の宮崎もデザイン開発では無理難題に好んで立ち向かっていくような性格なので、木工の昔の仕口(木の継ぎ方)を調べたりしながらかなり時間をかけて作り方を考えました。ワークショップのときに用意した試作を見て、小泉さんが「できている!」と言ったときは、「やった!」と嬉しく思いました。
小泉さんがデザインする製品はとてもシンプルですが、同時にとても個性的な特徴が潜んでいます。シンプルは、簡単・単純とは違います。シンプルには奥深い何かが備わっています。簡明なアイデアを製品として完成させるために、何かしら難しい課題が毎回仕込まれています。その難題を解くのがやりがいになり、ワークショップの前日は、未知のことに向かう気構えになり、そわそわしたりわくわくします。張り切りすぎて失敗したり、試作が間に合わなかったりということもありますが、できないことができるようになるまで、小泉さんは一緒に取り組んでくれます。難しいのはあたりまえ、ということも小泉さんに感化されたことだと思います。
デザイナーは、製品をデザインするだけじゃない。
デザイナーは図を描き、メーカーはそれを形にする。そういうものだと思っていましたが、そんな単純ことではありませんでした。共同、協業、共創とはなんなのかということを、ワークショップの現場やその後のやりとりで、毎回実感します。製品のデザイン開発だけなく、イベントの企画運営やブランドのあり方など、宮崎椅子製作所のぜんぶについて、親身になって考えてくれます。ワークショップ以外でも、社長ともスタッフともたくさん会話するようにしてくれていることが伝わってきます。実際、現在の社屋、ショールーム、スタッフルームを設計してくれたのは小泉さんです。小泉さんがデザインや設計を担当していない工場のリフォームや改装でも、小泉さんの影響は少なからずあらわれていると思います。
あるときは学級委員のように、あるときはガキ大将のように、宮崎椅子製品と宮崎椅子製作所全体のデザインを共に考えてくれる頼もしいパートナーです。