INODA+SVEJE 
イノダ+スバイエ

立体で考え、立体で描き、立体で検証する。

曲面をデザインする造形のエンジニア。

(文:宮崎椅子製作所 開発スタッフの談話を編集)

第一印象は、「この椅子は無理」

イノダ・スバイエは、猪田恭子さんとニルス・スバイエさんの二人によるデザイナーユニットです。ミラノを拠点として、家具だけでなくさまざなプロダクト製品のデザイン開発で活躍しています。

チェア「DC10」のデザイン開発を担当したとき、最初に3D CADのデータを見て、「あ、この椅子は無理」と思いました。「木工でやるような椅子じゃない」と。しかし、例によって無理好きの当社社長は、「できない」とは言いません。開発はスタートしました。

木工では無理と思えることを可能にするのがイノダ・スバイエらしさともいえます。しかし、材料や接合のことなど無視しているような印象の造形であっても、材料や構造のこともしっかり考えていることをワークショップを通じて感じました。不自然な木の接ぎ方や、接着剤に頼ることは決して良しとしません。二人がミラノから宮崎椅子製作所にやってくるときは 3、4日くらい滞在しますが、その間、試作の検証・改良のために工場で私たちスタッフと一緒にずっと木を削っている、そんな印象です。

1mm の違いが大問題、それを3日も4日も粘り強く「これだ」となるまで木を削り続ける。そんな取り組みから、無理と思ったものが木の椅子として完成するプロセスを共有させてもらったことは、後になってとても贅沢な経験だったと思いました。ワークショップをやっているときは、量産と強度の不安を覚えずにはいられないことばかりでしたが。

やり方の違いが、デザインの違いなのかも。

イノダ・スバイエのデザインはとても個性的です。らしさ、の塊だと感じます。天性や感性、学習や経験、考え続けたり努力によることも当然あると思いますが、「二人はデザインのやり方がぜんぜん違うんだ」と思ったことがありました。立体で考え、立体で描き、立体で検証する。
きっと、平面図で表すことはメモ程度のことなのだと思います。思い描いた造形を、最初から3Dグラフィックに表す。それを木で実際の立体として試作し、現物で曲面・曲線を確かめてさらにイメージ通りに近づけるために手で削り込んでいく。とりあえず良しとなったら、削った試作を3Dでスキャンして、もう一度3Dグラフィックで検証。そしてまた試作を作って、というやり方の積み重ねです。デザイナーというよりも、凄腕のエンジニア、職人ではないかと思ったりもしました。あるいは、マニアックを超えたオタク。オタクとは、世界を感心させるほどの探究心を持った人という意味です。

こんなやり方は、イノダ・スバイエだけです。こんな椅子をつくりたい、と頭の中で思い描いたことを、夢でなく現実のものとするために、そのやり方を考え実践している。それが二人ならではのデザインにつながっているのだと思い、たくさんの刺激を受けました。

地味で大事なこと、「あきらめたらダメなんだ」

イノダ・スバイエのデザインは、曲線、曲面のスムーズさをとにかく地道に探求します。3Dグラフィックを描き込み、工場ではサンドペーパーを手にして木を削り続ける。そんな地味な作業を地道にやり続け、ときには喧嘩口調でカーブのわずかな違いを議論し、二人が求める素直な歪みのないカーブを生み出していきます。

あるとき、求めるカーブを説明してくれたときに木の板をしならせて、「木が自然に曲がった線がいいんだ」と言ってくれたことがありました。コンピュータを駆使するのも、木の粉で手を真っ白にするのも、そんな自然なカーブの集合体を現実のもとするためなのかと気づきました。

そして、二人のもうひとつの印象は、パワフルだということ。こんなのをつくりたいんだ、という思いが熱く強烈です。一緒にワークショップに向かうには、こちらも全開でなければなりません。
地味だけど大事なこと、「あきらめたらダメなんだ」ということを、イノダ・スバイエとのワークショップで何度も感じました。

INODA+SVEJE プロフィール

日本人のデザイナー猪田恭子は、1996年渡伊、ミラノにて建築・デザインを学び、家具を専門にミラノ・サローネをはじめ展示会等に参加。2000年、デンマーク人の建築家・デザイナーのニルス・スバイエと出会い、デンマーク・コペンハーゲンにて「INODA+SVEJE」デザイン事務所を設立。以後、木工技術やデザイン歴史の深いデンマークの知識と、日本人とデンマーク人が持ち合わせる「清楚で静か」「精密で正確」「シンプルでミニマム」な性質に存在感を持たせるモノ作りをスタイルとする。2003年、拠点を再度ミラノに移す。現在家具を主に、プロダクト、医療器具、家電、グラフィックなどのデザインを手掛ける。

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